実利用者研究機構(ジツケン)では、2001年の設立当初から、「利用者のクオリティ・オブ・ライフ」と「提供者のクオリティ・オブ・ビジネス」の両立した向上を目的に様々な研究を重ねてきました。その中でも、「実際に企業で実践されてきた調査」を対象に研究した結果、調査手法自体に構造的な壁があることを発見しました。

利用者調査の実施する際の構造的な3つの壁

1.被験者集めの壁

自社で利用者調査を行う場合
  • 利用者を選定する際に、対象企業や対象商品が、被験者に事前にわかることによって、被験者の自然な利用状況の再現が難しくなる場合があった
  • 従業員や従業員の家族、友人から被験者を選定すると実際の利用者と製品に対する知識・経験が異なり、実際の利用状況とは異なる調査結果が出る場合があった
  • 利用者は、製品の改善知識を持っているわけではないので、利用者の声を直接聞くタイプの利用者アンケート等は、記載された内容をそのまま反映しても成果がでない場合があった
  • 高齢者を対象とした調査の場合、開発者が調査会場にいると若い世代を応援したい気持ちで本当の意見を言わない場合があった
  • 社内評価のため、第三者による客観的評価で公平性を保つことができなかった 等
調査会社に利用者調査を依頼する場合
  • その対象物を実際に使う可能性のない被験者が集まることがあった
    • 例)謝礼や粗品、ポイント等を目的とした被験者
        Web上で無作為に選定された被験者
        調査委託会社にモニター登録している方だけが対象の被験者 等

2.被験者の自然な利用状況を再現するための壁

  • 調査対象を利用者に伝えることによって、被験者の自然な利用状況の再現に影響を与える場合があった
  • 調査会場を自社や自社施設で実施する場合に、調査対象がどの会社の製品なのか、事前に被験者にわかってしまい、被験者の自然な利用状況の再現が難しくなる場合があった

3.調査結果を製品に反映するための壁

  • 仮説検証型の調査では、調査報告書を元に製品の改善を実施することが難しい場合があった
  • 被験者の利用状況や発言から、心理状態や意図を解析することが難しかった

上記の発見から、実利用者ユニバーサルデザイン認証では、以下の条件を定めています。

検証と研究を繰り返し辿り着いた

信頼性と客観性を保つ為の被験者選定方法

検証に参加して頂く「実利用者」は、信頼性と客観性を保つ為、実利用者研究機構(ジツケン)が選抜した「実利用者」により行われます。
実際の利用者に必要な要件として、その商品を使っている、もしくは類似品等の利用経験や今後の利用意思の確認をインタビュー調査にて行い、「その商品を使っている、もしくは今後利用する可能性がある事」を確認出来た方のみが「実利用者」となります。
過去にその商品あるいは競合商品等を企画・製造・販売経験がある人は、客観性を欠くおそれがあるので、除かれます。(例えば、印刷物であれば、グラフィックデザイナーや印刷会社、出版会社等への所属するもしくは勤務経験がある人は除かれます。)
家族に、依頼主企業やその競合他社へ勤務している人がいる場合も、客観性を欠く恐れがあるので、除かれます。

実際の利用者行動に影響を与えないための調査手法

通常は、調査対象を利用者に伝えますが、実利用者ユニバーサルデザイン認証では、利用者に調査対象がどれであるかは、実際の行動に影響を与えるため、知らされません。(たとえば「いつも通り、缶コーヒーを買ってもらう」という行動をして頂きますが、調査対象が自動販売機だったのか、缶コーヒーだったのか、等は知らされません。)

実際の利用者行動に影響を与えないための会場選定

企業内を調査会場とした場合に調査対象がどの会社の製品なのか、事前に被験者にわかってしまい、場合によっては、事前のその製品を調べてくる方もいるため、「実利用者による検証」は、信頼性と客観性を保つ為、実利用者研究機構の用意する会場で行われます。

信頼性と客観性を保つ為の取り組み

実利用者行動観察調査は、実利用者研究機構の調査責任者(有資格者)の立ち会いのもと行います。実利用者研究機構(ジツケン)の調査責任者が、実際の利用者、一人一人にあわせて、利用状況を再現します。
実際の利用者の利用している様子を、依頼主企業(制作会社など含む)が観察します。
調査中は、実利用者研究機構の調査責任者以外は、実利用者に話かけることは出来ません。

新しい改善プロセス

一般的には、認証機関からの改善アドバイスを元に改善を行いますが、実利用者ユニバーサルデザイン認証では、実利用者の利用状況を元に企業と制作会社が一緒に改善を行います。制作会社には、ユニバーサルデザインコーディネーターがいることを必須条件とします。

新しい評価方法

通常は、認証機関の専門家が対象物のデザインの評価を行いますが、実利用者ユニバーサルデザイン認証は、一連の改善プロセスが妥当に反映されているかを調査実績のある実利用者研究機構(ジツケン)が審査致します。

利用者と提供者が一緒に関わるプロセスを

作り手でもない、使い手でもない、
専門知識を持つ第三者機関が実施するということ

私たち実利用者研究機構(ジツケン)は、実際の利用者の想いをスピーディに的確に反映させて行くためには、作り手でもなく、使い手でもない、そして、利害関係のない第三者機関が利用者調査のコーディネーター役として参加することが適切であるという結論に至りました。しかも、ただ第三者機関であれば良いのではなく、多岐にわたる分野で実利用者調査を行なってきた実績があり、「利用者の声」ではなく、「利用者の利用状況」を改善に反映するスキルを有している機関が公平性を保つために参加することに意義があると考えます。私たちのやりたい事は、特別な対応ではなく、利用者と提供者が一緒に関わっていくというプロセスを広めていくこと、それが【実利用者ユニバーサルデザイン認証】に込められた私たちの想いです。

実利用者研究機構 CEO 岡村 正昭
実利用者研究機構 CEO 岡村 正昭